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機械仕掛けのトマト

何かあったら、書いてます。いろんなことが織り混ざっているので、何でもこい!な方はどうぞ。
更新は、遅いかも。

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『Garden』-プロローグ-

2009/09/19(Sat)20:56




『先生、質問してもいいですか?』

『あら、どうしたの?』

幼い少女は、その小さな身体からはみ出してしまう大きさの本を手に、幾分か心許ない足取りでその女教師の足下に近付く。
女教師は、眉の上で綺麗に切り揃えられた前髪を揺らし、肩から肩胛骨に掛けて伸びるダークブラウンの髪をそっと左手で背の方へと流した。
傍へ寄ってきた少女と目線を合わせるように膝を折ると、少女は好奇心の灯った明るい瞳で彼女の思慮深いグリーンの瞳を見つめる。子を思う母親のような優しい色に、少女はその大きな瞳を目一杯に開いてじっと見入り、そうしてから、思い出したように本の上に視線を落とした。

『この線は、なんの線なんですか?』

大きな本は、小さな両の手ではしっかりと支えられずにゆらゆらと少女と女教師の間で揺れる。女教師は、目の前の少女と比べれば随分と大きいが、細くしなやかな手で少女の本を支えてやった。そして、支えを得てやっと安定したらしい本の開かれたページに、先程まで少女に向けられていた温かな瞳を向ける。
少女がふっくらとした小さな指先でなぞるように該当の箇所を示すと、彼女はあぁと歌うように優しいアルトの声を漏らした。

『これはね、国境よ。』

少女は初めて耳にする単語に、どこまでも透き通るようなブラウンの瞳を、毛足の長い睫毛を揺らしながら瞬かせる。女教師はその頬に微笑を浮かべた。

『この線で囲まれた所が、私たちが住んでいる国。こっちの線で囲まれた所が、お隣の国よ。』

女教師の若く綺麗な指先が、魔法のように地図上に書かれた線の上を滑るのを見つめて、少女は彼女と同じ言葉を口の中で反芻した。その様子を、女教師はまたあの慈母の微笑みで優しく見守る。何度か言葉を繰り返し、漸くその意味を理解したらしい少女は、途端に愛らしい大きな瞳を輝かせて彼女の方を見た。

『それなら、ここにはきっと、大きな山があるか大きな川が流れているのね。』

女教師は自分に向けられた明るいブラウンのあまりにも自信に満ちた輝きに、思わず、言葉を返すタイミングを逸してしまった。少女はほんわりと膨らむ両頬を、新しい発見への溢れんばかりの喜びで薄赤く染めて、まるで素敵な宝の地図でも手にしたように自分の手に余る本を見つめる。
女教師は思慮深いグリーンに憂慮のブルーを染め入れ、目の前の少女に何と言って答えたものかと、僅かに口の端から息を漏らした。



 

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No.272|GardenComment(0)Trackback

はじめに。*オリジナル長編『Garden』を読む方は、まずこれを読んで下さい。

2009/09/19(Sat)20:52

こんにちは。
この記事は、この日記上で連載されるオリジナル長編小説『Garden』についての説明記事です。
小説を読まれる方ではじめての方は、これをお読み下さい。

まず、この小説についてですが、まったくの管理人オリジナル話です。
ここではない、どこか別の世界のお話であり、完全なフィクションですので、実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。
もちろん、無断転載は禁止です。
著作権は管理人:彩瀬にあり、自作発言等はお止め下さい。

と、上記は、常識の範囲のことですが、いちお日記上連載なのでサイトから来た人以外の方も見るだろうという推測の下に書いております。
あ、もちろんカテゴリー「お話」の中にある小説も上記のようなことが言えますが、そこはもう、きっと分かって頂けていると思って書いておりませんので、あしからず。

そして、物語の内容についてですが。
まったくもって、普通のお話です。
どういう意味かと言いますと、やおいとかではありませんよということです。
皆様が自由にカップリングを妄想してくれるのは全く構いません(寧ろ好きにしたまえ!という感じです)が、物語本編の内容自体にはBL的な要素は入っておりません。
なので、そういう要素を求めている方には不向きなお話かも。
なんでもいいよ。とりあえず、話が読みたいよ。って方は、どうぞ。

というわけで、ここまでこんなどうでもいい前書きを読んで頂き、どうも有難うございます。
この物語『Garden』は全て、カテゴリー『Garden』の中に入れられておりますので、この小説だけを読む方は、そこから入って、日付の古い物から順に見て頂ければいいかと思います。
とっても不定期連載なお話ですが、生きている限りは書ききるつもりなので(笑)、お付き合いの程、よろしくお願いします。

では、本編の方へどうぞ。

No.271|GardenComment(0)Trackback